第182号 「指導と罰について、今更ながら」

 最近フェイスブックで再び拡散されている、
2009年の桑田真澄氏の指導法に対する言葉です。

http://web.archive.org/web/20090314025316/http://kuwata-masumi.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-ea9b.html

 これを読んで思うのですが、剣道は野球とは違い、
格闘技です。技術だけを考えれば、相手を制圧することが
最終目標です。ですから、生徒は先生に全力で掛かりますし、
防具がありますから、先生も生徒の技量や年齢を見ながら、
ある程度は厳しく稽古をすることも可能ですし、
当然、必要に応じて稽古はそれなりに厳しくなります。
同じ力の相手と稽古をする時は、
心も体も徹底的に全力で掛かる事を要求します。
それに、やはり先生の方が生徒より強くないと
やっぱり話になりません。
(試合に強いだけということではありません。)

 しかし、これらの指導が体罰やしごきに変化してしまう
瞬間があると思います。では、それは体力や
精神力の限界を超えた生徒に、過度に打撃を与えたり、
激しい運動の連続を強要したりする事でしょうか?
罰を与えようという気では無く、愛情を持った
熱心な指導の末のよくありがちなことですが、
これは単に指導者としての技量の無さであると思います。
それは、厳しい範囲内で体力や年齢、技術、性格
を判断しながら適宜対応して行けばいいだけの話で、
これを見定めることが出来ない人は、
単に指導者としての技術が不足しているのだと思います。

 では、どんな時か。それは厳しい指導に指導者の欲望が
介入した時なのです。チームに勝たせたい、生徒を強くしたい。
それはどんな指導者でも望む事です。
でも、それは誰のためなのか。
「俺がこんなに教えてるのになんで上手にならないんだ?」
「俺がこんなに強いのに、なんでお前たちはついてこれないんだ?」
体罰やいわゆるしごき、人格を否定する様な態度は
こう言う気持ちで行われる事が、もう100パーセントだと
言っていいくらいだと思います。

 「チームの為に」というのも違います。それは
「自分の指導するチーム」すなわち「自分」が
そこに介在するからです。こういう事を言う人もいます。
「代々強いチームなんだから、今まで勝ってきた先輩たちに
申し訳ないと思わないのか?」大きなお世話です。
自分たちが精いっぱい頑張って練習して、それで負けたら
それは仕方がありません。自分たちが勝利を目指して
厳しい稽古に取り組んで行くのは素晴らしいと思います。
またそれを最善の方法に導いてゆくのが、アマチュアスポーツの
指導者ではないかと思うのですが。

 また、剣道には美学があります。それは一言で
言ってしまえばマナーです。マナーとは気遣いです。
立会いの中でも、後ろから相手にかかったり、
不意打ちのような事をしない。正々堂々を戦う事は、
相手に対する礼儀です。礼儀と言うのは、
これも人に対する気遣いと、それを表す動作です。
そして稽古中は相手に対する礼儀だけではなく
生徒から先生、そして先生から生徒への
礼儀だってちゃんとあるんですから。

 ですから、生徒が相手に対して稽古中に無礼な態度を
とった場合は、相当厳しく怒られて当然です。(これは
厳しい指導という話の中でも、全く別の話になります。)

 虫みたいに感情を殺して行けば、勝負には
強くなるかもしれませんが、そういう人が
指導者として人を育てる立場になったらどうでしょう。

 そして、そんな人たちばかりの社会になったとしたら、
それは誰もが幸せに暮らしてゆける社会でしょうか。
それでは剣道が7段になろうが8段になろうが、
単に人を棒で叩くことがうまくなっただけの、
単なる自己満足というだけで、何の意味もない事です。

 プロだったら実力。これで金稼いでるんだから、
性格なんか関係ないという意見をお持ちの人も
いらっしゃると思いますが、礼儀も気遣いも
人としての常識もない、そんな人に憧れる子供達は
少々かわいそうな気がします。

 そもそも、プロスポーツは人気商売。多くの人に
夢を与えるのがスポーツの本当の役割です。
「ファン感謝デー?めんどくせーなー。」
なんてタバコふかしながらボヤいているプロ野球の選手って、
どうなんでしょう。こんな人が引退して、
間違って少年野球のチームの指導者として
迎えられるかと思うと恐ろしい限りです。

 気合い入ってないから稽古前に全員素振り2000本、
試合勝てなかったから校庭10周。

 片や、基本動作を体に覚えさせるのと筋力向上の為、
色々なパターンで体のバランスに注意しながら
自分のペースで素振り2000本。
足腰の強化の為に、空き時間に各自ランニング、目標10周。

 あなたは、どちらの指導者の指導を受けたいですか。

第181号「うらやましや~」

 「若くてうらやましいなあ」なんて言葉が出ると同時に、
目上の方々からも同じことを言われる年齢というのは少し複雑です。

 しかし、中高年が若い人に対してうらやましいと思う以上に、
若いうちの方が他人がうらやましくてたまらない時期がありますよね。
有り余るのは体力と時間だけ。金なし、経験なし、知識なし、権力なし、
色気なし、責任もないけど、発言権もない。口を開けば目上から
「余計な事を言うな」「まだまだそんなことでは...」と説教される。
「クソー、いつか見てろよ」と悔しくて眠れず、時には
走り過ぎてしまう事も多いはずです。

 まあ、本当に若いうちはそれさえも「若さゆえの...」と
認められてしまう時もたくさんありますが。

 さて、「うらやましい」には二通りあります。
「いいなあ、俺もがんばってあんなふうになろう」という「励み」、
「なんであんな奴が恵まれているんだ」という「妬み」。
他人の成功を「励み」にするか「妬み」にするか、
それは自分の素養次第だと思います。
特に友達の事を妬みに思ったら、それは自分が
変わらなければならない時です。自分がやりたいこと、
すべきことに正面から向き合っているのであれば、
おそらくそんな暇はないはずです。

 しかし、年齢に関わらず、恨みや妬みではなく、
単に他人がうらやましい思う瞬間は多々あるはずです。
私も有名選手の剣道の動画を見ていたり、
いい剣道をする友人がいると、
「ああ、すげえな。うらやましいな。」と思う事も少なくありません。
もちろん、その人たちの人知れぬ弛まぬ努力があってこそ
という事は十分わかっていますが、自分の好きな事に
才能が無いと絶望したり、どんなに努力しても
結果が出ないと感じたりすることもあるでしょう。

 誰でも人間ですから、他人をうらやましくなる事はあります。
逆にそうでなければ競争社会である資本主義は成り立たない。
しかし、他人をうらやましいと感じた時、同じくらい自分の事を
うらやましいと思っている人が世の中には
何人もいるという事を思い出して下さい。
また、あなたがうらやましいと思っている人も、
きっと他の人をうらやましいと思っているはずです。
隣の芝生は青く見えるとは良く言ったものです。

 そして、そのうらやましいと思う自分の気持ちに
嘘をつく必要はないと思います。
他人の素晴らしさを素直に受け入れるところが、
自分が努力をする真摯な気持ちに
つながって行くのではないでしょうか。

第180号「氷の上で」

 ソチオリンピックも終了しましたね。
政治の問題、お金の問題、色々ありますが、
やはりオリンピック自体はスポーツの祭典ですから、
その選手の必死の姿と高い技術は、
メダルを取ったかどうかという結果に限らず、
多くの人を感動させる瞬間を作り出してくれます。
フィギュアスケートの浅田選手の事は、
もうここで語らずとも、
一つの素晴らしいストーリーになりました。

 以前、「心を打つ」という話を書きました。
剣道の勝負の中で、素晴らしいテニックよりも、
ただ無心の一撃が人の心を打つことが多くあります。

 なぜか調子を崩してしまうと言うことは、
どんな競技でもあり得る事です。
しかし、そこから見事に復活したのは、
実力と練習の賜物だと思います。
浅田選手のフリープログラムの演技の時も、
最初はやはり間違えないようにと集中していた
様子が見られます。しかし後半、本当に自我を忘れて、
氷の上からずっと体が浮いているように見える、
ある瞬間がありました。
これこそが、無心であり、見る人が心を奪われる
瞬間ではないでしょうか。まさに「人の心を打つ」演技です。

本人も最高の滑りができたとの言葉どおり、
それはメダルをとったかどうかという結果論を超えて、
多くの人を感動させました。
今まで多くの選手が彼女をめざしてきたであろうし、
またこれからも彼女を目指してフィギュアスケートを続ける
若い選手が増える事でしょう。

それは、彼女が金メダルをとったかどうか、
というところではない所に人々が心を揺さぶられ、
価値を認めているからなのでしょう。

おそらく、それは剣道でも、どんな競技でも
実は同じなのかもしれません。
そして、本当のスポーツの価値というのは、記録と同時に
そこにあるのかもしれません。

大きな大会で優勝、あるいは常に上位という
有名な先生方も大勢いらっしゃいます。
しかし、市井にて仕事の合間に剣を磨く
無名でも立派な先生方も大勢いらっしゃいます。

 こういう先生方にあこがれて、多くの剣士が
長い剣の道を歩き始め、歩き続け、
その中の一人が将来有名な選手になるかもしれないし
剣道は上達が遅くても、社会に貢献する
素晴らしい人になるかもしれない。

 それは、まさに順位だけではない
大切なものを見て人が育っていく証拠です。

個人大会であれば優勝する人は一人です。
頂点に立つことは素晴らしい事です。でも、頂点に立てなかった
一流の技術を持つ選手も多くの価値を持つ選手がたくさんいると
言う事はすばらしい事実だと思います。4年間、必死の練習に
取り組んできた全ての選手たちに、心から拍手を送りたいと思います。

 メダルを取れなかったから悪いと思え?ふざけるなと言いたいです。
成果が出なくても、その努力は気の遠くなるような時間を
厳しいトレーニングに費やしています。
代表が日本のトップクラスであることに変わりなく、
国や協会からの少ししか出ない予算でがんばって
競技を続けているのです。

 負けてニヤニヤするな?テレビの前でなんか泣けるか!
昼は脱力、夜は一人で悔しくて眠れない日々が続くいてるに
決まってんだろ。

 文句言ってるおまえら、文句があるなら金払え!