第158号 「刀をつかって」

 刀を使って形の稽古を行うと色々考えることがあります。
それは、竹刀を刀の稽古として考えた時に、
どうすべきかということです。

 竹刀を使う技術では物は斬れないと言います。
全てとはいいませんが、確かに現代の剣道の技では、
竹刀でしかできない技もあります。
言い換えれば、竹刀を使ったからこそ、
「進化」した技とも言えるでしょう。

 それを頭から否定する人もいますが
競技の中での技術の進化ですから、それはそれで
良いのではないかと思います。

 そもそも、剣道の面白い所は「相手との会話」です。
竹刀を合わせて相手の気や間合いを読み、チャンスが見えたら
そこで思い切った捨て身の技を出す。これだと思います。
それに速い足さばきや、観察力、体力気力を養うことが
まずは剣道の修行の目的ともいえるでしょう。

 しかし、剣道の概念はやはり刀であるということは
常に頭に入れておくべきだと思います。
特に外国においては、日本刀の技術から発達した
日本の武道であるという事が、とても大切な
剣道のアイデンティティーとなります。

 また、本来の技術的にも、刀と竹刀の使いかたは
言われているほどかけ離れた技術では無い、
と個人的には思っています。

 刀で物を斬る時、やや硬いものや大きいものを斬れば、
思うよりも大きな衝撃を手の内に感じます。
ですから、一瞬の手の内の締め付けは、やはり居合刀や
木刀でただ素振りをして、空を打って稽古をするよりは、
竹刀で物を叩いて、最後に一瞬グッと手の内が
しまる感覚を覚える必要があると思います。

 また、木刀を使って剣道形をやれば、
刃筋などの剣の理屈がわかりますから、
なぜ剣道において竹刀の横で叩いたり、手先だけでちょこんと
打つような打ち方が良くないかということを
実践的に理解することができるようになると思います。

 しかし、竹刀と刀、打つと斬る技術の
違い云々はありますが、もっとも大切なのは、
自分が相対しているのは刀だという、
そういう気持ちを忘れてはならないということだと思います。
ですから、一振り一振りを「真剣に」行うのです。

 そういう気持ちが子供たちの中に芽生える為には
やはり大人が手本となって、正しく懸命に
稽古をする姿を見せるしかないと思います。

第157号 「家紋カモーン」

 漆塗りの胴には家紋を入れることができます。
金か銀の蒔き絵で、これがあるとグッと高級感が増します。
大抵の場合は、左の上のほうに500円玉くらいの大きさで
奥ゆかしく描かれますが、お腹の真ん中にドーンと入れたり、
胴の胸の刺繍のデザインにしたりする人もいますし、
袴の背板に刺繍をいれているのも渋くていい感じです。

 外国人からすれば日本人のほとんどの家庭では
家紋があると思うかもしれませんが
「ウチは家紋なんてわからない」
なんてご家庭も意外と多いのです。

 そもそも日本で家紋があったのは貴族や武士でしたが
時代が下ると、一部の商人(しかも商人は大抵家紋ではなく屋号の意匠など)や
歌舞伎役者や遊女などが粋に紋をつけはじめました。
やがて明治時代になって庶民でも苗字を持つことができるようになり
どこの家庭も武家をまねて家紋を持つようになったのです。

 もちろん、元々は皇族や華族、または士族か、
士籍を抜いて平民になった家にしか
先祖代々の家紋なんてありませんから
皆、地域の殿様や名士の紋などを使ったり
好きな物を選んで使ったようです。

 今では身の回りには色々なところに家紋が使われています。
その中の最たる物がお墓です。この習慣は江戸時代あたりから
始まったと言われていますが、その理由は檀家制度でした。
それまではお墓といえば個人のお墓でしたが、
お寺に檀家が出来たことによって、墓が一族の墓となり
「何々家」と家名が入るようになりました。

 それ以外にも、正装の場合の羽織や袴には
必ず家紋が入っていなければなりませんし
元々は武家の習慣であった兜飾りはもちろん
こいのぼりや五月人形にもなんかにも
家紋を入れることが可能です。

 まあ、玄関やお弁当箱やかばんに家紋を入れている家は
今では少ないでしょうが、逆に今は家紋シールなんてのも
買えますから、何にでも家紋を付けたい放題です。

 ただし、高級外車のスモーク張りのリアウィンドウとかに
大きく入っているのは、確実に職業を勘違いされるので
その筋でない方は気を付けた方がいいかもれませんね。

 さて、大抵は家紋と言えば男紋で、
男性家系に伝わる紋を使用します。
しかし、無い場合は母方の家紋を使うのも可です。

 特殊な場合ですが、例えば子供の百日参りの時の
赤ちゃんの着物は母方の紋ですし、女性の着物には
母方の紋を付ける地域もあるそうです。
また珍しい習慣では、家紋の丸をはずして
女紋とする地域もあるそうです。

 また、戦国時代からの武家の慣わしで、
婿養子に入った本人の家柄の方が高ければ
こういう場合は婿養子に「入れる」のではなく
「お迎えする」という立場になりますから
苗字は婿に入った家の氏になりますが
家紋はそのままその家の紋として継続して使ったそうです。

 これは結局、
「我が一族は、もっと位の高い由緒ある一族と
血がつながっているんだよ」
というアピールというか、単なる見栄のようです。
(最も、戦国時代、江戸時代は
こういうのも必要だったようです。)

 実は、同じ話を私の祖母から聞いたことがあり
祖母の家系は実際にそうだったそうですが
「それって数百年も前の話じゃん!」
という話でも、昨日の事のように語り継いで
脈々と受け継がれているところにも
日本人の家系と家紋に対する考え方が
現れていて面白いとおもいました。

 しかし、現代は家紋がそこまで大切な場面は
ほとんどありません。ですから、自分の家の紋が
わからなければ、結局、自主規制して
天皇家や旧幕府徳川家の家紋などを避ける以外は
勝手に好きな物を選ぶことになるのです。  

 日本人じゃなければ、自分の一族の
紋章がある方もいますし、国の紋章もあります。
そうじゃなかったら勝手に好きなのを選べばいいんです。

 映画監督でお笑い芸人の北野武氏は
天皇陛下即位20年を記念するの宮中茶会に
ご招待された時、黒紋付の正装でしたが
なんと家紋が、オフィス北野の丸に「K」の文字の
オリジナル紋でした。

 これはこれでアリか...とは、
世界の北野武だからこそ、
許されてしまうんでしょうかね。

第156号 「着座と正座、その2」

 座るときに、無理に体をまっすぐに保ったまま座ろうとすると
かえって力が入って不自然な動きになってしまいますし、
かといって重力に頼りすぎると不恰好になってしまいます。
人間はこの微妙なバランス制御を全く自然に行っています。

 人間の上半身の中で一番上に乗っているのは頭です。
成人の頭の重さは約5kgだそうですが、この重い頭を
支えながら立ったり座ったりするときには、さまざまな筋肉が
働いて、上手に重心をとっています。

 例えば、立つ場合は頭を前に移動させて立ち上がる事が
多いと思います。頭は重量があるので、前に少し傾けて膝の真上に
移動させ、そこから下半身を使って、斜め前に頭の重さを押し出すと
効率的にバランスをとることができるからです。

 椅子の背もたれに寄りかった状態から立ち上がる時に、
誰かに額に手を当てられて、頭が前に動かないようにされると、
素早く立ち上がれないのはこういう理由です。

 そして、筋力が衰えてくると、立ったり座ったりする時に
手を使ったりして体を支える事になります。

 しかし、やはり頭をふらふらさせたり
手を突いて立ったり座ったりするのは、
お年寄りや病人怪我人なら仕方なくとも、
元気な若い人がやるのは、お世辞にも
美しい動作とは言えません。

 特に、剣道の道場では健康な心と体を作るために
稽古に来ているわけですから、意識して行うべきです。

 では袴を着けた際の着座のおさらいです。

1)まず座る時に、必ず片足(剣道では左です。)を、
半歩ないし一歩後ろに引きます。

2)そこから、徐々に両膝を曲げ、左足を後ろに滑らせるように
かかとを上げてつま先を立てたまま、片膝を着きます。

 この時に、首筋を伸ばしたまま、頭を前ではなく、すっと地面に垂直に
落とすような気持ちで座ります。この時点で頭は前足の膝ではなく
下げた足の膝の真上にありますから、ここから頭を前に出す必要はありません。

3)そして、膝を突いて腰を下ろしたら、
4)立てている膝を静かに床に下ろし、
5)両足の膝を下に着いてつま先を立てた形になり、
6)つま先をはずし、お尻をかかとにおろして自然に正座の形になります。

 また、立つときはこの反対の動作になりますが、
こうすると頭を前後することなく背筋を伸ばしたまま、
きれいに立ったり座ったりできます。

 特に大切なのは5)の動作で「跪居(ききょ)」というのですが
これがないと一貫の動作が成立しません。

 着物を着慣れている方は、逆にこういった動作でなければ
なかなか上手に立ったり座ったりできないことを存知だと思います。

 ただし、剣道の立ち方は、実は袴着用時の動作でして、
着物の長着を着ている場合は、こだわってこの立ち方で立つと
100パーセント裾が乱れることを覚悟して下さい。

 ちなみに、弓道(小笠原流)では右足から座り左足から立ちますが、
これは自分の右側に上座がくる場合の立ち振る舞いで、
こうすると、上座にお尻を向けることがないからだそうです。

 茶道などの場合は流派によってまた違うかと思いますが、
どちらの足から起座するかはTPOに合わせればいいので、
知識として知っておかれれば良いかと思います。