第122号 「買っちゃった」

「あ、俺クリスマスプレゼントいらないから」
「何言ってんのよ、もう買っちゃったわよ」

 夫婦で交わされた会話の真意とは...

 それは、私が既に自分にクリスマスプレゼントを、
内緒で勝手に衝動買いしてしまったからです。

 大したもんじゃありません。竹刀が壊れたので
インターネットで竹刀をまとめ買いしたんですが、
たまたまクリスマスセールで甲手がバーゲンだったので、
つい買い物かごへ...。

 それから、しゃれた鍔止めが安かったので、何かの
ギフトか景品にしよう、と数個まとめて買いましたが
そこには当然、自分で使う分も含まれています。
ネットショッピングは本当に危険です。(笑) 

 さて、この数年で新製品が、以前には考えられなかった
価格で販売されるようになりました。友人には防具屋でも
始めるのかと言われるくらい防具のセットが自宅にあります。
と言っても中古の頂き物か安物ばかりですが。

 自分の古い防具、父親が使っていたすりきれた古い防具、
先生のお古の防具、それと、オーダーメイドで作った
試合用とよそ行き用、それに安い普段使い用、その上に先生に
頂いたすごく古いもので、いつか修理して使おうと思っている
職人が作った、高かった防具...。(それと子供たちの防具に
子供のクラブの貸し出し用の防具、修理する防具もアリ。)

 これ以上はあまり必要ないとわかっていながら、
それでも、インターネットのサイトなどを見ていると、

「お、1分5厘の手刺しの鹿革の面がこんな値段で!」
「あ、総刺しの2分刺しの甲手も使いやすそうだなあ」
「生地胴は最近けっこうみんな使ってるから、古風の
編み竹胴とかも変わってていいなあ。」

 もうキリがありません。

 色即是空、空即是色。所詮この世は刹那、物欲など
空しいものとわかっていながら、やはり悲しいかな、
人間は生まれた時から欲のかたまり。

 こればっかりは、修行しても修行しても打ち破る事が
できない煩悩の一つでございます。

 本当は、本当に良い防具がひとつ、やや使い古した
もう一つ良いものが一つ。そして甲手がもう一つあれば
それで十分なんだそうですが、残念ながら本当いい防具は
まだ持っておりません。

 だから、次こそは本当に良い防具を買おうと思うんですが
やっぱり許可でないだろうなあ...。

 ちなみに、本当に高い防具は100万円ぐらいするものも
あるそうですが、今は20万円くらい払えばオーダーメイドで
修理しながら何十年も使える十分良い物が入手できます。

 もちろん、十万円しない大人用の防具でも十分長く使える
ものも沢山ありますが、やや違いがあります。それでは何が
違うかといえば、もちろん使い心地なんですが、その使い
心地を求める為の素材の違い、工程の手間、国産の職人か、
海外の工場かなどなどが違ってきます。

 こういう話を書いていると、なんとなくオーダーメイドの
スーツの話をしているようですが、感覚的には近いものが
あるでしょう。

 もっとも、それより腕前を上げるのが先なんですけどね。
いくらお金持ちだからといって、高校生が胴だけで何十万円もする
鮫革を張った胴をつけていたら、普通は周りから「ふざけるな」と
言われます。剣道の防具は、成金のボンボンが親にフェラーリ
買ってもらうのとは、ちょっと意味が違うのです。

「そんな高いスーツ着るなら、それに見合う仕事をしろ!」
「そんな高い防具着けるなら、それに見合う実力をつけろ!」

あー、耳が痛い。

第121号 「子供の試合」

 子供たちとの稽古も、今年はいよいよこれでおしまいです。
今年も多くの皆様方に大変お世話になりました。この場を借りて
御礼を申し上げます。

 さて、年末には恒例の試合が行われ、各自がんばりを見せました。
(残念ながら試合に参加できなかった生徒諸君も皆稽古では
がんばりました。次回の参加をたのしみにしています。)

 さて、初めてお子さんが試合に参加されたご家庭では
保護者の方から「なぜあれは一本にならないの?」という声が
当然聞こえてきますので、今年も簡単にご説明させて頂きます。

 剣道で一本になる基準は、経験のない人から見ると
極めてわかりずらいので、以下のことを知っておく必要があります。

 まずは正確に面、甲手、胴などの決められた部位を、竹刀の
決められた打突部で打つことが条件です。

 竹刀の打突部というのは、竹刀の先の9センチほど下から
から中結革の辺りまでです。この部分がもっとも少ない力で
効果的に力が伝わる、すなわち斬りやすい部分になります。
切っ先や根元が当たっても、なかなか一本として認められない
事が大半です。

 では、当たっているのになぜ一本にならないのか。

 剣道の「剣」と言うのは刀です。確かに刀を振り回して
それが偶然かすっっただけも、相手は怪我をするか、
さらには死んでしまうこともありますが、
それは身についた技術ではありません。また、先がかすった
だけでも、根元が当たっても、刀を効果的に使っている
とは言えないのです。ですから、あまりにも打つのが
軽すぎたり、あまりにも刀を使うのとかけ離れたような
姿勢では一本として認められません。

 次に気合です。声は勇気を奮い起こし、相手を圧倒する
気迫のあらわれです。また、同時にどこの部位を打っているか
偶然に当たった訳ではないことを明らかにするためです。
これがなければ剣道ではありません。

 現実問題として、別に声を出さなくても相手に竹刀は
当てられますけど、武士の時代の事を考えれば、
実際に刀を持って斬りあうのは、かなり怖かったはずです。
自分も斬られることを考えれば、これくらい気合をかけないと、
刀を持つ相手には向かって行けなかったんでしょうね。
(実際の気合はヤァーとかトー、エイの様でしたが。)

 私たちには想像つきませんが気合をかけるというのは、
本当に斬りあいをしていた昔の人の考えたことですから、
やはり剣術には必要なことなんでしょう。

 そして、最後に残心(ざんしん)です。動作と気持ちの
二つのことがあります。気持ちの上では、打った後でも
気を抜かず、すぐに相手に対して戦う気持ちを見せて、
相手に反撃の隙を与えないということです。

 動作に関してですが、手だけで振り回して打った場合は
体がその場所に残ります。足を使って体が真っ直ぐに
相手に向かって出ていれば、打った後でも、そのまま
体が前に出ます。フォロースルーというやつです。
そこですばやく相手に向かって再び構える。

 これらの条件を満たさなければ一本になりません。
以下は連盟の規則です。

[ 有効打突]
 第12条
有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の
打突部 で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。

[竹刀の打突部]
 第13条
竹刀の打突部は、物打を中心とした刃部(弦の反対側)とする

 年齢が上の子供たちが、もっと色々な技を使えるよう
になれば、もっと試合に見ごたえが出てきますよ。

 ちなみに、今回は教育的指導ということで
反則はとりませんでしたが「場外に出る」
「竹刀を落とす」「相手をつかむ」「相手の竹刀をつかむ」
「こぶしが相手の竹刀の刃部に触れる」
「不当に相手を場外に押し出す」「足をかける」
「故意に竹刀を相手の肩にかける」など、
これらは反則で減点になります。
反則2回で相手に一本が与えられます。

 また、有効打突の後に必要以上にアピールを
繰り返したり、ガッツポーズをとったりした場合は一本の取り消し。
 審判や試合相手に対して失礼な態度中傷や挑発的な態度
があった場合は相手に2本が与えられ、退場となります。

 無礼な行為の禁止に関しては、小さいころから
徹底的に指導をされるべきです。

 余談ですが、他のスポーツでの、相手チームに対する
ファンのブーイングに違和感を持つのは、小生がこうして
剣道で教わっているからでしょうか。
「全力で戦う相手だからこそ敬意を払う」という意識が、
日本でもだんだん無くなってしまっている様で、
とても悲しい気がします。

 剣道を通じて大切にしたいことのひとつだと思います。

第120号 「気合いを入れないで乗り切れ」

 今回は全然剣道と関係ない話で申し訳ありません。
実は先日、珍しく心身共に疲れきってしまいました。

 ちょっと仕事の締め切りが立て続き、2-3週間程ピークで
最終的には頭が全く働かなくなってしまい、仕事の効率が全く
あがらず、無理やり頭を働かせているという感じでした。

 そこで、思い当たることがありました。実は何年も前に、
どうにもこうにも気が重くなり、色々と思い当たることがあって
うつ病ではないかと医者に相談しに行った時のことです。

 専門医ではないのですが、主治医のアドバイスがこうでした。

「やはり環境を変えるしかないね。」

 環境を変えることができるかと聞かれたので、私は

「しかし、仕事を辞めてしまうのは、やはり難しいです。」

と答えました。すると彼は続けました。

「でも、今自分が仕事を抜けると、皆に迷惑がかかると思うだろ?」
「ええ、思います」
「それは雇用主の考えることだ、俺の知ったことか、って言ってやれよ」
「しかし、自分が責任ある立場の仕事もあるので...。」
「今抱えてる仕事は自分しかできないから、投げ出せないと思ってるだろ?」
「...はい」

 そこで、彼はこう答えました。

「ははは、そんなことないよ。君の代わりなんかいくらでもいるよ。
だから気にするな」

 お前の代わりなんかいくらでもいると言われたらちょっと悔しいですが、
確かに、自分でそんなに抱え込むこともないのかなと思ったら、かなり
気が楽になりました。それに仕事では自分の代わりはいますが
子供たちにとって直接遺伝子の半分のコピーを分けた父親は私一人です。
こんなところで落ち込んでいるわけにはいきません。

 まあ、そんなこんなでなんとか乗り切った訳ですが、
それ以来、そのアドバイスがとても役にたっています。

 なんでも大変になったら投げ出すのが良いというのではなく、
覚悟を決めてやるだけやって、それで出来なかったらそれでいいじゃん。
という開き直りです。私ごときの存在では、確かに多くの人に
迷惑がかかるかもしれませんが、締め切り間に合わなくたって
自分や誰かが死ぬわけじゃないですからね。
(そう考えれば、医師や裁判官や兵士、警察官、消防士、
救急救命士など、人の生死や安全に関わる仕事のプレッシャーは
計り知れないものがありますが。)

 さて、先日の話に戻ります。久しぶりに頭が限界でした。
出なければならない会議にも時間がなくて出られず
仕事を延々と続けながらも、すべての締め切りが迫ってきます。

 そこで、私が決心したこと。

「もう、やーめた。」

 仕事を投げ出して早く寝てみました。別に締め切りに
間に合わなくたって死なねえよと。

 そして4時間後、パッと起きて、何をしたかと言うと
普通に残りの仕事を始めたんです。
 よく考えたら仕事しながら毎日ソファーで倒れるように寝て
明け方起きてまた仕事の続き、とかそんな感じでしたから
結局のところ、単に睡眠時間が足りなかったんですね。

 次の日、何本か「すんませーん、締め切り間に合いませんでしたあ
ごめんなさーい。」ってメールと電話の何本かで平謝りをし、
あとは優先事項からサクサクと片付けていきました。
 しかし、気持ちも頭も軽いので、ちゃんと同時に3つくらい
仕事ができるんです。うーん、すばらしい。

 やはり人間、寝ないと駄目なんですね。

 ということで、私はまたあいかわらず色々な締め切りに追われながら
がんばっております。

 お仕事大変なみなさん、がんばりましょう。

第119号 「気力と体力」

剣道の稽古では、掛かり稽古や立ちきり稽古の用に、体力の
他に気力を振り絞って動かなければならない稽古もたくさん
あります。特に若いころは、打たれても突かれても必死に向かって
いくような稽古をする(させられる)のだから、
気力も体力も充分に鍛えられます。(ちゃんと稽古すればの話ですが。)

 さて、気力と体力どちらが大事かと言われれば、どちらも大事です。
しかし、どちらが先かと言えば、まず体力でしょう。「腹が減っては戦が出来ぬ」
「体が資本」、まさにその通りです。

体力があっても気力がなければ困難に立ち向かうことはできない。
ならば気力さえあれば戦えるという事です。では逆はどうでしょう。
気力はある。でも体力はない。これでは戦うことはできません。

 だから困難に立ち向かうための気力を備えるためには、まず体力が
必要ということです。まずは、三食しっかり食べて、ちゃんと寝て、
と言う基本的なことが必要です。ここのところのプライベートでの
かなりの忙しさの中で、これがいかに大切かという事を思い知らされました。

 年齢が上がってくると、なかなか忙しさにかまけて筋力トレーニングを
することが少なくなってきます。自分の会社や商売、家庭での仕事に加えて
家族の時間を考えれば、筋力トレーニングの時間ですら取るのはなかなか
難しいですよね。

体を使う仕事をされている方も、普段から体を使っているから、
できれば体を休めたいのは当然です。しかし、少しでもトータルに体を
鍛えておくことに損は無いと思います。

 では、どの程度の運動が良いのでしょうか。できれば散歩などではなく、
ある程度負荷がかかる運動の方が良いようです。ですから、例えば歩く
のであれば、リズムを作って早足で歩いたりと、やや汗ばんで少し疲れる
くらいの運動をする以上の運動が良いと言われています。

 そして、一番大切なこと。それは休息です。大人に比べて子供は元気です。
あの底抜けの体力には驚かされます。かつて自分達もあんな風だったとは
信じられないくらいです。もちろん、外で遊ぶより屋内で何かを作って
遊ぶのが好きなお子さんもたくさんいますが、いずれにせよ、たくさん体を
動かせばお腹が減る。食べてお腹がいっぱいになったら寝る。
寝れば心と体の両方休めることができます。
心と体が充実すれば、また元気に動くことができます。

 こんな簡単なことが大人になると、なぜか次第にできなくなってくるのです。
子供に習うことはたくさんあるのですね。