第90回 人に合わせて

 自分が稽古の元立ちとして指導する時に、
「相手のレベルに合わせた剣道をする」というのは必要ですが
それは技のレベルだけの話ではありません。
その相手が何を望んでいるか、どんな剣道をしたいかという事も
時には考えなければならないからです。

 例えば、相手が若くて実力もある場合、当然ながらこちらも(楽しい
ので)本気で行きます。しかし、剣道の価値観が相手と全く異なることが
往々にしてあります。

 例えば、相手は相手に早く竹刀を当てることに重点をおいています。
しかし、こちらが打突よりも、心の動きや剣の動きを制することに
重きを置いていた場合はどうでしょう。
 相手は、色々な角度から、フェイントをつかったり、遠いところから
飛び込んだり、色々な方法で打たれることを避けようとします。その
相手に対して
「そんな品のない剣道があるか!」
といくら怒ってみても、相手にしてみれば
「口先ばっかりであんたの竹刀は俺にかすりもしねえじゃねえか」
という事になります。つまりは、剣道に対する考え方が全く
かみ合っていないということです。これは、どちらが正しいという
ことではありません。

 もちろん、こういう人も、自分の剣道のレベルが上がれば、往々に
して考え方もかわるのですが(だから、剣道は次の審査の資格を得る
までに時間がかかるのです。)例えば、そういう人が他人を認めるには、
自分が精神的にそのレベルに立つか、徹底的に叩きのめされるかの
どちらかです。先生の話だけ聞いて「なるほど~」なんて話は
まずありません。

 八段の有名な偉い先生に質問をしたことがあります。
「先生、八段の先生方にはどのように稽古を
お願いすればいいんでしょうか。」
 実は私も、それほど遠くはない昔に、よく先生方に
「そんな剣道があるか!」
「それで勝ったと思うな!」
と怒られていましたので、聞いてみたかったのです。

 すると先生は笑っておっしゃいました。
「あー、好きにやればいいですよ。八段だったら何やっても効かないから。」
なるほど、そんなもんかと目からうろこが落ちるようでした。
だからと言って、好き勝手にやる訳ではありませんが、つまりは勝ち
負けとかではなく誠心誠意、自分の全てを使って本気でやれという事
です。(という私の理解です。)

 もしそこで、私の心がまだまだであれば、適当にあしらってくれるし、
邪念があれば叩きのめしてくれるし、もう少しのところであれば引き
出してくれる、という事だと思いました。大抵の高名な八段の先生方は、
それくらい懐が広い、言い換えれば多くの修羅場を乗り越えて来ている
ので、なんでも対応できるくらい強いということなのです。

 しかし、こちらはその足元にも及ばないくらいの剣の位ですから、
やはり試合の様に早く相手を倒すような稽古を望む相手には、それを
踏まえて、勝てるように、勝っても負けてもお互いにスッキリするまで
戦えるように努力したいと思っていますし、心で戦いたい相手には、
こちらもできる限りそのような気持ちで、打っても打たれても
満足できるような稽古をする気持ちで臨みます。
 相手のレベルが、こちらに手も出せないくらい違うのであれば、
ここというところで機会を与えて、技を引き出して機会を覚えて
もらうように努力しています。

 単に指導する技術の内容を変えるのではなく、相手の心、その時の
レベル、年齢を含めた全てを見ながら稽古をする。そういうことが
「相手のレベルに合わせて」ということなのではないでしょうか。

第89回 子供に合わせて

 今月でパース桜剣道クラブもちょうど2年目を終えようとしています。
体育館もない頃に、見切り発車的に小学校の教室で始めた小学生の為の
剣道クラブが体育館も借りることができ、生徒数も30を超えるほどに
なりました。いつも支えて下さる皆様方に心から感謝致します。

 さて、小学生の指導と言えば、小生が高校生の時に、学校のクラブが
無い日は小学生の稽古にお手伝いとして参加することになりました。
もちろん高校生ですから、技などの指導は先生方にお任せして、
もっぱら「声を出せ」「前に出ろ」と掛け声をかけたり、子供たちの
世話をするくらいで、あとは稽古の元立ち(下の相手の稽古を受ける
の事。)に立つのが専らの役目でしたが、その時に先生方から「稽古の
元立ちは、相手より少し上のレベルくらいやるもんだ」という話を頂き
ました。

 指導者になって初めてわかったのですが、これがなかなか難しい
もので、もちろん子供相手に力任せに叩きまくることはできませんが、
例えば自分がわざと手加減しているとどうなるかというと、子供たちは
同じように手加減した打ち方になるのです。子供たちだからといって、
こちらが加減した気合を出すと、子供たちの気合は同じような、いい
かげんな気合になります。

 全日本選手権でも優勝された有名な先生が、地元の子供たちに教える
ときは、本気で打ち込むそうです。本気で打ち込まなければ子供たちは
本気でやる剣道がわからないというのはとてもよくわかります。

 もちろん、まだ剣道を始めたばかりの人は加減して打てませんから、
指導者として稽古の元立ちに立つことはありません。また、その子供の
能力や技術を判断する能力が必要ですから、剣道が強ければ誰でも子供
の指導ができるかというと、そうではありませんし。やはり指導する為
の技術も必要ですし、また他のスポーツの指導経験があるだけではなく、
剣道に対する理解もなければなりません。

しかし、それ以前に、子供は指導者をよく見ています。いくら子供で
あっても、こちらが本気でやる気持ちを見せなければ子供たちも、
やはり本気ではかかってきてくれません。

 本気でかかると言っても、それは子供にとっては大変なことです。
でも、技で負けてもその気持ちで負けない、負けたくないという気持ち
を持ってもらうことも、剣道の修行の内でとても大切なことなのです。

 個人的なことを言えば、私は根性論は嫌いです。「根性がないから
勝てない」「気持ちがたるんでいるからうまくならない」は全くの
ナンセンスだと思っています。しかし、気力を強く持つということは、
剣道で最も大切なことのうちの一つなのです。
「つかれたからできません」「つらいからできません」
 言い訳をする前に、歯を食いしばって飛び込む気持ちというのも、
子供の時には大切にしてほしいと思います。言い訳ばかりしている
子供が、いつか言い訳をしなくなった時に、本当にその子供が剣の上
でも成長したことになるのだと思います。

第88回 足の裏

 剣道をする人の悩みの一つはは足の裏のケアです。
稽古は当然裸足で行うものなので、足の裏に負担がかかります。

初心者で、剣道の稽古量が増えると、左足の裏の力のかかる
部分の皮がむける事があります。これはとても痛いです。
しかし、懸命に稽古する人は、誰もが一度は通る道です。

 私は左の足の指の関節の裏側がよく裂けてしまいます。
飛び込むときに皮膚が引っ張られすぎで裂けて血が出てしまいます。
今度は、飛び込んで打つ度に傷口が広がるのでとても痛いのです。
「バカモノ、怪我するのは動作が理にかなっていないからだ!」
と怒られるところなんでしょうが、皮膚が硬くなるのばかりは
怒られてもしょうがないですからねぇ。

 まあ、飛び込まないで打てば、怪我は避けれるんでしょうけど、
まだまだ熱い剣道をしたいので、そんな訳にはいきませんからねえ。

 話を戻しますが、そうこうしながら稽古を重ねていくと
足の裏の皮がだんだん厚くなってきます。ちょっとやそっとでは
皮もむけなくなってきます。

 しかし、ここで別の問題が発生します。ひび割れです。
裸足で稽古をしている訳ですから、ひび割れたり皮膚が裂けたりすると、
そこからばい菌が入りやすい状態となっています。稽古が終わった
後はすぐに消毒をしなければ、あとで長引くことになります。その
予防方法としては

1)テーピング

 テーピングが一番いいのですが、オーストラリアはスポーツテープが
驚くほど高い。ですから、多少の出費は覚悟の上ですね。焼きテープ
などがあれば、もっと効果は高いのですが。

2)足袋のようなサポーター
 サポーターは剣道の専門店(ネットショップでも可)で購入できます。
ただし、古くなってくると乾燥している時はすべることがあります。

3)クリーム
 あとは角質をやわらかくする保湿クリームをつけて靴下を履いて
寝ればいいんでしょうけどこれが面倒くさすぎてできません。そもそも、
剣道をしてる人は、基本屋内は裸足です。靴下を履くこと自体が面倒
くさいのですから、これは難しいかもしれません。

4)風呂に入って軽石でこする。

 今はいい製品がいっぱい出ていますので、地道に行うのであれば
これもいいですね。角質が取れるのは気もちがいいです。面倒なので
大工道具のグラインダーで一気にやってみたことがありますが、
これが熱い!角質が削り取られる前に、摩擦でやけどをしそうです。
あまりおススメしません。ナイフを使うのは気をつけて下さい。

 では、実際に怪我をしてしまったらどうするか。ひび割れに瞬間
接着剤を入れて接着してるツワモノもいました。
(しかも女の子でした。)しかし、強引ですが、割れ目を拡大
させないために皮膚の表面だけならこれもアリといえばアリ。
バンドエイドなどは取れてしまうので、スポーツテープでぐるぐる
巻く以外は方法がありません。

 そこで傷口を早く治す為に登場するのがテラ○イシンなどの抗生物質
入り軟膏ですが、抗生物質の使用に過敏なオーストラリアじゃ、抗生
物質入り軟膏なんて処方箋なしには薬局で買えません。抗生物質と
コルチゾン(ステロイド)が入ったテ○コートリル軟膏なんて、一発で
かゆみも止まるし傷口も治るんですけどね。

 こちらの薬学の専門家に言うと、「なんで日本では、そんなもんが
処方箋無しで買えるんだ!」と驚いていましたが、怪我が治って稽古が
できればいいんです、稽古ができれば。(医者の皆様、すみません。)

第87回 道場の床

 我がパース桜剣道クラブも、練習場所は体育館です。
海外では当然のことながら、日本でも多くの子供たちは
体育館で稽古をすることが多いのです。

 剣道をされている方はご存知のはずですが、剣道専用に作られた
道場と体育館とはどう違うと思いますか。

 現在、桜剣道クラブで使用している体育館は、古い体育館ですが
以前に体育館を所有していた学校でスポーツの特別プログラムがあり、
特別支援か何かを受けていた関係で、当時の技術で最新の床が
張ってあります。床の材質は割と固めの木だと思いますが、
スプリングが良いらしく、衝撃の吸収がすばらしく良いのです。
 
 こちらではバスケットボールなど、最初からスニーカーを履いて
行う競技用に作られているところは、予算の関係で、コンクリートの
上にある程度衝撃吸収するラミネート材が引いてあるか、床材が直接
貼り付けてあるかどちらかの場合が
ほとんどなので、こういう床で長く剣道をしていると、膝、踵、
腰に負担がかかり怪我をすることが多くなります。

 また、滑り止めが効くようなワックスが塗ってあると、
返って足を滑らせなければならないところでひっかかってしまい
足を痛めることがあります。

 ですから、昔から道場では床を雑巾で拭いて湿り気をあたえ、
油で磨いて乾燥を防いでいたという訳です。

 昔の資金に余裕のある剣術の道場は、もちろんスプリングなど
無い時代ですから、反らないように半年以上寝かせた、長い杉の
一枚板を張って、床材自体がたわむ様に作り、また踏み込んだ時の
音を響かせるためと、おそらく空気圧の調整の為もあったのでしょうか、
床下には大きな甕をいくつも置いていたそうです。

 日本で個人道場を作られている方は、他の部分はベニヤでもいいから
とにかく床だけはいいものを作って欲しいという方がほとんどです。
いくら学校の武道場を作っても、床が良いものでなければ、せっかく
の道場が勿体無いことになってしまいます。

 堅い床材の場合は、かかとにサポーターをしたりして衝撃を
防ぐこともできますが、やはり良い床で稽古をすることの安心感は
稽古の上での怪我の予防から考えれば、何物にも変えがたいものです。