第82回 学ぶこと

 先日の稽古で、子供たちに見ることの大切さの話をしました。
「学ぶ」とは「まねる」こと。先生の稽古や上手な先輩の
稽古を見て、それのよいところを真似する。上達の一番
手っ取りはやい方法です。

 その昔、いろいろな剣術の流派がありました。今では
もう名前を聞かれなくなっているもの、廃れてしまったもの、
数多くの流派があったということは、その数だけ「秘伝」
と呼ばれる技術があった訳です。

 この「秘伝」というのは読んで字のごとく、他の人には
知られることのない必殺技のことです。そもそも稽古自体も
同じ流派の門弟以外は見ることはできず、技術は門外不出であり、
その中でもごく限られた者にだけ伝えられた技術です。

 主には流派の後継者です。もし、流派の長が敗れてしまえば
その流派は廃れてしまいます。たとえそれが、どんなに卑怯な
意表をついた技だったとしても、流派の宗家は負けるわけには
いかなかったからです。

 これらの技術、特に一子相伝とよばれる、自分の子の中から
才能のある一人のみに伝えられた物のは、たいてい「口伝」(くでん)
でした。巻物などに書かれていては、誰に中身を盗み読まれるか
わからないからです。

 師が選ばれた者だけに伝えるのですから、短期間で
行わなければなりません。教わる方は、一寸見ただけでは
わからない技もあったでしょうし、その限られた間に
全てを学ばなければなりませんから、教えるほうも
教わるほうも必死です。

 本来、学ぶというのはそういうことです。
「先生と生徒だから教えてくれるのはあたりまえ」
「自分が上だから教えるのがあたりまえ」
ではありません。

 師が命を削って稽古して身につけた技術を
誰にでもそう簡単に教えてくれる訳はないのです。
まずは、見てコツを盗むのです。そして師は
それを知っていながら隠さず、時にはそれとなく
ヒントなど与えながら生徒を導くのです。

 教わるときには一語一句逃さぬように、教えるほうも
中途半端に覚えられては教えた意味がありませんから
できるようになるまで徹底的に教えます。

 ですから、教わる方は常に油断なく上の人間を見ていることが大切です。
そして、「教える方は常に油断なく下の人間に見られていると思うことも大切です。

第81回 面を修理してみました

 面の頭の上から肩にかけて、布の厚くなっている部分を
「面布団」といいます。刺し子になっていて、安いものは
ミシンをつかってあります。やや高いものは多くが手縫いです。
 目が細かくなると耐久性も上がりますが、手間もかかり、
糸も多く使うので値段も上がります。

 この面布団ですが、オーダーメイドにすれば長さも
指定出来るのですが。規格品は大抵長さが決まっています。
一般的な長さに作ってありますから、時々体に合わない
こともあるわけです。子供用の面はこの部分もちゃんと短く
作ってあります。しかし、子供の体格によっては、
規格品でも長いことがあります。

 低学年の子供の場合、特に新しい面はまだ面布団が固いので、
この部分が長すぎたりすると、思うように腕が上がらないことが
あります。(ですから、本当は小さい子供は、ある程度古くて
柔らなくなったお古の防具がいいのですが。)

 で、我が家も子供の面の左右に広がっている部分が
体と比較して長すぎる感じがしましたので、自分で修理してみました。
 これが手差しの何万円もする面であれば、当然剣道具屋さんに
修理をお願いするわけですが、まあ安い防具ですから、どうせ作りも
複雑ではないだろうと、安易な気持ちで挑戦してみたわけです。
 日本に修理に出したら、おそらく修理代の方が面より確実に高く
なってしまいますからね。


 さて、まずは面布団の横の部分のへり革を必要分だけはずしました。
(再利用の予定なのでこのへり革は切らずにとっておきます。)
ちなみに値段の高い手差しの面の場合は、縁が袋縫いになっています。
こちらの方が手間がかかるので高いそうです。

 こうしてへり革をはずすと、面布団の断面が見えてきます。普段は
なかなか見ることが出来ませんから、なるほどー、などと唸りながら
じっくりと観察します。現在、安い面は合成繊維のフェルトで、値段が
上がるにしたがって、違う種類のフェルトが層になっていきます。
それを表に厚地の綿を使い、鹿革や牛革、または人工皮革で
補強しています。

 ちなみに最も高い防具には羊毛などの獣毛で作られた古代緋毛氈
(ひもうせん・お茶の席やお寺などで使う和風のカーペット)や
大昔の軍隊毛布などが良いそうで、これに真綿を重ねて作るそうです。
これが最も柔らかく耐久性があるそうです。今では段々良質の材料も
少なくなっているそうですが、思い返せば、昔はどんな子供の防具も
結構いい値段したのは、全て防具は手作りだったからなんですね。
(大人のそこそこの品質の手差し防具が10万円代で買えることも
ありませんでした。)

 それでは、次の工程です。思い切って鋏で端を10センチほど
切りとります。もちろん、あまりに短いと失敗ですので、前もって
慎重に長さを決めておきます。この綿布団は厚いので、当然、普通の
工作用鋏では切れません。私が使用したのは、トタンなど薄い鉄板を
切る鋏です。

 さあ、それでは縁側の取り付けです。安いものは全てミシン仕立て
なので、時間節約の為にミシンを使って...。できません。(泣)
厚すぎてうまくミシンの針が通らないのです。もうはじめてしまった以上
仕方がないので、可能なところはミシンを使って、あとは手縫いです。
 革用の三角針を使って細かく縫い付けていきます。本当は太い木綿糸
を使うのですが、ここはあまりこだわらず、鋏でなければ切れない、
ナイロン丈夫な太い糸を使うことにしました。稽古中に崩壊しては
元も子もないので、しっかりと縫い付けていきます。

 私も普段は仕事の準備があります。それが夜中に全部終わってからの
作業になりましたので、終了したのは結局明け方でした。
子供の防具修理の為にほぼ徹夜です。普段はめったにかけない
メガネをかけての作業でも目がかすみます。

「父さんが夜なべして面布団なおしてくれた...。」

 みなさん泣けますか。私には泣けます。違う意味で。
うひゃー、疲れた。

第80回 がんばれ

 いつもながら子供たちの稽古を見ていると、その一所懸命な
姿に心を打たれます。全員とは話や稽古ができなくても
いつも心の中でそれぞれの子供たちに「がんばれ」と声をかけています。

 子供も少し大きくなると、頑張る事が恥ずかしかったり
カッコ悪いと思うようになることがあります。
さらにもう少し大きくなると、がんばる事が面倒くさくなってきます。
 そして、大人になると、がんばれない理由を作ってしまうこともあります。

 小学校低学年の小さい頃は、こういう剣道がしたいとか明確な目標もなく、
ただ目の前に、先生が「さあこい」といって構えているから、思いっきり
掛かって行くのです。
 同級生や先輩に少し勝てたらうれしい。先生やお父さん、お母さんに
「がんばったね」「じょうずになったね」と褒められたらうれしい。
 単純極まりない理由でぐたぐたになるまで稽古をするのです。

 もう少し大きくなって、強くなるための稽古が始まると、また違います。
自分で思うように体が動かなくなってきて、疲れると悲しくもないのに
涙が出てきて、それでも必死で打ち掛かっていく。そのうち涙も出なくなる。
あと一本、あと一本、と思いながら稽古を重ねていくのです。

 夏は防具が重くて暑いし、冬は裸足に薄い剣道着一枚で寒い。
大声出さなきゃ先生には怒られる、油断してると叩かれる。
 それでも、稽古が終わると笑顔で「ありがとうございました」
と言ながら、礼をしにきてくれる子供たちを見る時ほど、心から
うれしいことはありません。子供たちに剣道の指導をする機会を
与えられた事に心から感謝をしています。

 だから、子供たちにそういう思いをさせながら教えていくには
自分もがんばって、子供たちにだけでなく、剣道そのものに、
また自分自身にも、真摯に向きあって行かなければならない。

 子供達との稽古は、いつもそんな気持ちにさせてくれます。

第79回 サイボーグ

 怪我は中年スポーツ愛好家には悩みの種です。いかに怪我と
付き合っていくかで、残りの人生も変わります。

 私も大変怪我が多く、30代の終わりからめっきり怪我が
増えるようになりました。多いのが肉離れと腱や間接の怪我です。

 あれ、この程度の運動で?という運動量でも筋肉痛になったり
突然ものすごく疲れてしまったり。スタミナがあっても
動きがとたんに鈍ったり。

 そもそも、怪我自体よりも、回復に時間がかかるようになった
ことが何よりもショックです。

 そこで、怪我の負担と予防も兼ねてサポーターをして稽古を
していたのですが、つま先、かかと、アキレス腱、ふくらはぎ、
膝、太もも、肘...。

 あまりにもサポーターが多く、ほぼ素肌が見えない状態で、
着替えの時には仲間から
「おまえはサイボーグか?」
と笑われていましたが、結局前の怪我は完全に治るまでに
一年かかりました。

 怪我をすると精神的に落ち込みます。普段からも痛みも出ますし、
パフォーマンスもあがりませんから、思うように稽古ができず
 そして、そこでさらに落ち込んでしまうこともあります。
その気持ちを振り払う為に、また痛みをこらえて稽古をします。

 しかし、防具の手入れをしているとムズムズしてきます。
竹刀を持つとムズムズしてきます。他人の稽古をしている姿を見ていると
ムズムズしてきます。特に同じレベルの友達同士が、エキサイティングな
稽古をしていたり、強い先生方がいらして、強い友達をたたきまくって
いるのをみると、かなりムズムズします。

 もちろん、怪我が治るまでは絶対に稽古をしないほうがいいのは
明白です。

 そして、黙々と着替えて、防具をつけて
「いてててて」とかいいながら稽古をしている自分がいます。
まだまだ人間ができていませんね。

 ちなみに、これを克服する方法は、普段からジムなどで筋トレを
行う以外はないそうです。うーん。