第34回 構え(2)

今回は、中段の他にもう一つよく使われる
上段という構えと、他の構えの話です。

 上段は「火の構え」とも呼ばれます。
徹底的に相手を威圧する構えです。

 防御や応じ技(相手に打たせてその技を返して打つ)
にはあまり適しませんが
竹刀を上まで振りかぶる必要がないので
攻撃には効果的です。
また、現代の剣道では左手だけの片手面が
認められていますので、
遠くから相手を打つのにも有利です。
全日本選手権をはじめ、多くの試合でも
上段の選手が度々優勝しています。

 ただし、まずは中段をキッチリ出来るようになった上で
上段の稽古をする為、普通は人並みはずれた努力が必要です。
また、中学生までは上段は認められていません。

 例えば、実力が上の人にうっかり上段などとろうものなら
突きまくられて、手を下ろした所を散々叩かれる
確実に地獄のような稽古が待っています。

 本気で上段を遣うことを目指すなら、
そのような厳しい稽古を乗り切って行かなければ
出来るようにはならないということです。

 さて、上段と良く似た構えに八相があります。
共に相手を威圧する構えです。
ただし太刀筋(注1)が袈裟懸け(注2)です。
現代の剣道では打突部位に入りません。
鎖骨や首筋を狙う為、怪我の危険性が大きいからです。

 脇構えとは、前回説明したとおり
自分の右側後方に刃先を下げて
刀を隠すようにする構えです。
ここからだと攻撃は下から切り上げるか、
大きく回して上から斬ることになります。

 ただし、下から切り上げる技は、現代の剣道では
競技としての有効打突にはありません。
上から回して振ると遅くなりますので、やられる確立が
高くなるのです。(試してみて経験済みです。)

 そもそも、この脇構えは、自分の刀の長さを隠して
相手に距離を悟られないようにするのも目的で
現代剣道では皆がほぼ一律に同じサイズの竹刀を
もっているので、あまり意味がないかもしれません。

 ただし、これらの構えは剣道の本来の目的のひとつである
「刀法の理論を学ぶため」
として日本剣道形に取り入れられています。

 剣道の構えを陰陽五行説のに当てはめると
こうなると言われてきました。

八相(木)陰
上段(火)天
下段(土)地
脇 (金)陽
中段(水)中心

 どのように解釈するかと言うと
火は水を消し(上段に対して中段・平正眼)
水は土に吸い込まれ(中段に対して下段)
土は木に養分を取られ(下段に対して八相)
木は金物で削られ(八相に対して脇構え)
金は火によって溶かされる(脇構えに対して上段)
と相対関係にあります。

 つまりこれらの構え方は、
相手がどの構えで来るかによって変わるもの。
臨機応変にせよということです。

 これが何百年もかかって先達が作り上げた
剣の理論なのです。


(注1)太刀筋(たちすじ)...刀を振る軌道

(注2)袈裟懸け(けさがけ)

 左肩あるいは左首から右わき腹にかけて斬ること。
お坊さんが仏教で不浄とされる左手を隠す為、
または作業がしやすいように右腕を諸肌脱ぎにする為と
されることに由来した袈裟をかけている方向と同じだから。

第33回 構え(1)

 剣道では「構え」という動作があります。
打突に入る前の予備動作のひとつです。
効率よく剣を振るうためのものです。
また防御のためのものでもあります。

 剣道では竹刀で稽古をする以外に
日本剣道形という二人組で木刀を使って行う稽古方法があります。
技術の統一の為、戦前の剣術の色々な流派の形から
技を抜き出して作られた約束稽古です。

 これを参考に太刀を使った構えを見てみると

1.中段(もしくは正眼)と呼ばれる、竹刀の先を相手に向けた構え
2.上段と呼ばれる、左足を前に出し、竹刀を頭上に上げた構え
3.右上段(右足を前に出して上段に構える)
4.下段(刀の刃先を下げて構える)
5.八相(左上段で手元を肩先まで下ろして担ぐようにする構え)
6.脇構え(自分の右側後方に刃先を下げて刀を隠すようにする構え)
7.平正眼(相手の左目から拳に剣先をつける)

という数多くの構え方が存在します。

 戦国時代には重い鎧兜を身に着けた上に
大きな長い太刀を使っていたので
肩に担ぐようにしなければ
移動の効率が悪かったはずですし、
そもそも兜があるので振りかぶる事はできません。

 また、戦い方も違いました。
たとえば馬上にいれば当然中段などは出来ません。

 しかし、現代の剣道で用いられるのは
主に中段と上段の二種類のみです。
なぜだと思いますか?

 中段とは相手と立って相対した時に
最も攻防がしやすい構えと言われています。
攻防一体の、大将の位の構えと呼ばれます。

 まずは江戸時代に入って戦の時代が終わり
鎧兜をつけずに刀で戦う事を想定するようになった為、
攻防に優れた中段を使う流派が多くなりました。
また、当時の大きかった道場の多くが
基本的には中段を採用していた
一刀流から分かれたものであったことも
中段がスタンダードになった理由と考えられます。

 中段では、またほぼ臍の下位の位置で左手が収まるため
臍下丹田(せいかたんでん)、いわゆる下っ腹を意識して
構える事の重要性がが比較的分かりやすいのです。

 この下っ腹は体の中心です。
人間の体のバランスの「重心」であります。
他の構えでもこれは大事なコツの一つで
まずは、これを中段で作らなければなりません。

 ところで、下段も左手は中段と同じく
臍下丹田に収まります。

 では、なぜ下段を取らないかというと
元々の下段の攻撃は主に胸や腹、下半身への突きになるのですが、
現代の剣道では、ここは打突部位に指定されていません。

 規則には書いてありませんが、その様な理由で現代の
剣道の形に下段は使いませんが、相手にプレッシャーを
与える時などは、すっと相手の竹刀の下に自分の竹刀を
つける事もあります。これが現代の下段に近い形でしょうか。

 下からグッと攻められると、下からの攻撃に
人間の体はあわてて上にバランスを崩すか、逆に下だけに
意識を集中してしまうことが多いので、
そこで慌てて反応すると大抵の場合は打たれてしまうのです。

 そこを中段でぐっと我慢するか、すっと抑えるか。これも
経験の中で臨機応変に動かなければなりませんが、
難しいところです。

 ところで、宮本武蔵の「五輪書」にはこうあります。

上段も時に従ひ少し下る心なれば中段となり、
中段もをりにより少し上れば上段となる、
下段も折にふれ少し上れば中段となる、
両脇のかまへも位により少し中へ出せば、
中段下段ともなる心なり、

 つまり、どの構えも結局は中段の応用で
中段が出来なければ他の構えも出来ませんよ。
ということなのです。

第32回 面着け

 今日の稽古で、多くの子供達が
生まれて初めて面を着けました。

 面をつけて並ぶ子供達を見て
本当にうれしい気持ちになりました。
自分の可愛がっている生徒たちと
面をつけて稽古が出来る事で
(もちろん、まだ面をつけていない子供も)
また一つ、分かち合える事が増える事を
心のそこからうれしく思います。

 また、特に私事ですが、
小生は自分の子供がおりますので
親子で剣道が出来る喜びはひとしおです。
私の父も、他界する前は私の剣の先生でしたので
非常に感慨深いものがあります。

 しかし、子供達にしてみれば
最初は視界が悪く、耳も聞こえないし
締め付けられて頭も痛い。
それに、重いし、とにかく暑い。

 これを着けて竹刀を振って走れというんだから
これで本当に剣道って楽しいの?
と思う子供がほとんどだと思います。

 また、まだ子供達は経験していませんが
面をかぶると言う事は、
相手に叩かれると言うことです。
子供達にとっては勇気のいる事です。

 中~高段者同士で稽古をすると
強い打突でも、まず痛いと感じる事はないのですが
初、2段くらいまでは力で振る人も多く
打ち込みを受けていて「痛いなあ」
と感じることがあります。

 子供同士だと、力の加減が分からなくて
背の高い子供に背の低い子供が
思い切り上から叩かれると
角度によっては泣くほど痛いのです。
コレは大人でも相当痛いです。

 そして、ここでくじけてしまう子供が多いのです。
剣道の第一関門と言ってもいいでしょう。
ですから、家に帰ったら
お父さん、お母さん方は
とにかく褒めてあげてください。
子供達にとっては大変忍耐のいる経験です。
急に痛みや辛さに耐えられるように
なる訳ではありません。

 そして、そこから色々な技術と
強く真っ直ぐな心を身に着けて、
相手と打ち合う様になると
剣道は本当に楽しくなります。

 最初は動作もスムースに行かず
ガチャガチャと防具が歩いているみたいで
特に小さい子供だと実に微笑ましい。

 誰でも最初はそうです。
私たちだって、初めて面をつけた時の
うれしくて、同時に不安なドキドキした気持ちは
今の桜剣道クラブの子供達と同じだったのです。
子供の時、初めて面を着けた日の事は
今でも覚えています。

 そして今でも
「姿勢を正して、面着け!」
という掛け声を聞くと、
そこでヨシッ、と気合が入ります。

 面紐を素早く結んで
長さを合わせて、ねじれを整えて
篭手をつけて立ち上がると
ビッとした気分になります。

 子供達がいつかこういう気持ちで
剣道以外にも色々な事に取り組めるようになる様に
導いて行きたいと思います。

第31回 大きく振る事と小さく振ること

 素振りでは、皆大きく振るように指導しています。
大人も子供も同じで、まずは基本が大切です。
肩を使って、というより
肩を力を抜いて大きく稼動させ
体を全部つかって打つことが
自然に出来るようになることが目標です。

 そして、中高校生くらいになると
小さく速く打つ打ち方を習います。
この小さく速く強く、という打ち方は
試合に良く出る学生や社会人たちに限らず
一般的にも良く練習します。

 相手より早く竹刀が振れると言う事は
相手に早く打突が与えられるので、
速いにこしたことはありません。

 「剣道は剣を使うのだから大きく振らなければ
切れない、意味が無い。」という人がよくいます。

 それも確かにそうなんですが、
実は、これは大きく速く振る事の応用なので
決して大きく振る基本技と違った動きではないのです。

 言い換えれば、大きくまっすぐ振る基本動作が
キチンと出来ていなければ素早い実践的な動きは出来ません。
(ただし、竹刀でしか出来ない技がたくさんあるのも事実で
これら技は刀法ではなく、刀の技術を応用した、
競技としての近現代の剣道の技と認識していただければ
結構です。)

 さて、剣道の一本と認められる打ちは
まず、しっかりと打突部位(面上部、小手の筒の部分、
胴、突き垂れ)を打っていることが条件です。

 基本動作が出来ていないのに
小さい打ち方だけを習うと
腕だけを使った打ちに成りがちで、
いわゆる手先で当てるだけの打ち方になるので、
若くて体力があるうちは、スピードで勝負が出来ますが

 体勢が崩れたままで打つ癖がつくことがあり、
次第に打突の効率が落ちてきます。
すると、今度は竹刀ににうまく力が伝わらないので
打突も自然と軽くなります。

 思い切り振りかぶって思い切り叩きつけるのが
決して良いわけではありませんが。
相手に素早くちょこっと触るような
軽い打突はみとめられないということです。

 ですから、子供の時にキッチリと基本動作を
身に着けておかなければ、その時だけは試合に勝てても、
後に高い技術や心の自制が求められる
高段者への道が開けません。

 子供のうちは少しくらい試合に勝てなくたって
そこから考えて一生懸命努力していけば、必ず結果が出ます。

それが剣道の良いところなのです。