第18回 武の神様(2)

(前回からの続き)

 この八幡様と呼ばれる神様は
戦と関わりがあるエピソードの多い神様で
たとえば、同じく8世紀頃の話で
大和朝廷の討伐使が反乱豪族の討伐に赴く時に
この八幡神に神託を仰ぐと、神様が出てきて
直接討伐に赴いた、という言い伝えがあります。

 また、宇佐神社の大宮司が平家と婚姻による血縁関係にあり
敗走する大将と平家一門をかくまったり
「将門記」では、平将門が神託を受けて
「新皇」(しんのう)を名乗ったりと
平家に深い関係がありました。

 その一方では源氏にも関係の深い神様で
皇族から分かれたと言われる源氏は
古い天皇であるこの神様を崇拝し、
たとえば源義家は石清水八幡宮で元服したことから
八幡太郎義家と呼ばれました。

 また、有名なのは平家物語の中で
源氏の武将である那須与一が
扇の的を射る時、弓を引く前に目を閉じて
「南無八幡大菩薩、別しては我が国の神明、
日光権現、宇都宮、那須湯泉大明神、願はくは
あの扇の真中射させてたばせ給へ。」
と祈ったというくだりが書かれています。

 このように、武門に関する話が多くあったことから
戦国時代から江戸時代にかけて武家の間で流行し、
武の神様として信仰されるようになりました。

 また、先の戦争では出征する兵士の間でも
かつての武士の八幡信仰にならって
八幡信仰が流行った事もありました。

 もうひとつ有名な武神は建御雷之男神(タケミカヅチオ)で
日本神話において高天原(神々の住む国)と
黄泉の国(死者の世界)の間の国である
葦原中国、つまり現世の日本国土を平定した神様です。

 ミカズチは雷の事であり、雷神は剣の神様で
今は武神として鹿島神宮や春日大社に祀られています。

 また建御雷之男神と共に戦った
経津主神(フツヌシノカミ)も刀の神で
香取神社に祀られており、
二つの神社は共に武術に密接な関係を持っています。

 このように、元々武術は騒乱を平定する為
神の御加護を得て威を表すという考え方があったため
昔から今に至るまで神棚を祀っている道場が
多いのです。

第17回 武の神様(1)

 で武道と神様の話を書きましたが
ご存知のとおり、日本では昔からの道場には、大抵神棚があります。

 時代劇などをよく見ていると分かりますが、
昔の道場の神前には、大抵の場合は神道の天照大御神(アマテラスオオミカミ)
または仏教の大日如来(だいにちにょらい)
(神仏習合でしたから、どちらでも同じだったのでしょうが)
が本尊として祀られ、その隣に八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)
という神様が共に祀られています。

 八幡大菩薩、元は八幡神。とても有名な「武」の神様です。

 八幡神とは八幡(やはた)神社や八幡宮に祀られている神様です。
元は宇佐地方(現在の大分県)の大神氏の氏神と言われ
6世紀ころに祀られ、農耕や海の神様となりました。
今でも海を臨む高台に祀られている所も多く、
かつて人々は漁の無事や海の安全を祈願したそうです。

 ところが、8世紀には神様本人が神託に光臨し
「誉田天皇広幡八幡麻呂(ホンダノスメラミコトヒロハタノヤハタマロ)である」と
名乗ったそうで、これは応神天皇の事ですので
これ以降は八幡神は応仁天皇であるとされてきました。

 なぜこれが大菩薩と呼ばれるようになったかというと
この頃に起こった仏教の台頭に関係があります。

 仏教は百済を経て6世紀に日本に伝わりましたが
時の天才、聖徳太子は7世紀始めに天皇の摂政として
大和朝廷の政治を司りました。
その時、権力の背後にある政治的な理由から
朝廷の仏教による政治を明文化させました。

 これにより、仏教は本格的に日本の宗教の
大きな流れの一つとなるのですが
元々は日本には道教や神道などがありましたから、
この神道と仏教をうまく融合させる必要がありました。

 その後、聖武天皇が全国に国分寺を、
また奈良の東大寺に大仏を建立して
仏教による護国太平を祈願しようとした時に
宇佐八幡も神道の御加護をもって大仏建立に協力しました。
その他の政治的危機となった事件でも解決に一役買った為
その時に宇佐八幡は「菩薩」という仏教での称号を与えら
八幡大菩薩と呼ばれるようになりました。8世紀の事です。

(つづく)

第16回 礼という字-武道と神様

 礼とは何ですか?と聞かれると、多くの人が
相手に頭を下げるなどをして敬意を表すること
お礼を言う事と答えると思います。

 「礼」と言う字は「禮」という字の略字です。
この字を二つに分けると、左の「示」は「しめすへん」ですが、
この「示す」という漢字は、元々は神様に
お供えをするための台の形を現したものです。

 また、もう一つの解釈では、元々は「酉」と言う字だそうです。
この字は今は干支の「酉年」(とりどし)と言う読み方で
使われるのがもっとも一般的だと思いますが、
もともとは、お神酒を入れる徳利のような容器の形を現したもので
そこから実りを意味したものとなりました。

 さらに右側の「豊」は豊作の豊です。たかつき(お供えする台)の上の
稲穂を表したものだそうです。

 いずれにせよ、「禮」と言う字は、神様へのお供え、
豊作を神に感謝すると言う意味です。こういった語源から
禮と言う字は「祭禮」など神事に関連する言葉に使われて言います。
そして、この「神様に対しての感謝」が
「習慣や儀式にのっとって感謝を表す」
という意味にも使われるようになったと思われます。

 公共施設では特定の宗教を特別に用いないということで
地域のスポーツセンターの武道場や
公立の学校施設には該当しませんが、
日本では昔からの道場には、神棚があります。

 ですから神棚などがあるところでは稽古の前に「神前に礼」
無いところではクラブの旗などに「正面に礼」
という挨拶をするところが殆どです。

 武道は神事との古くから結びつきがありました。
日本神話で伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)が
神々から日本国を作るために授かったのが矛(ほこ)でした。
矛とは槍のような武器で、今でも「矛盾」という言葉に見ることが出来ます。
そもそも「武」という言う字は「矛を止める」と書きます。
字の上の部分は矛の形を表したものです。

 他にも節分祭りなどの払い魔の儀式で使われるのは弓矢です。
そして、刀にも神の力が宿っていると考えられていました。
建御雷之男神(タケミカヅチオ、もしくはタケミカズチオノカミ)が
武の神様として祀られているのは、ミカヅチが雷の事であり、
雷神は剣の神様でもあるからです。

 このように、礼と言う字は元は神様と結びつく言葉でした。
ですから、礼をする時は相手にもや先生に感謝をするだけでなく
どんな宗教を信じていても、その神様(もしくはご本尊)に
また、神様を信じていなかったら、自分自信の運命に
「今日も健康で仲間と共に剣道をすることが出来る幸せに感謝をします。」
と思えば、自分の気持ちが本当の礼の意味に
近づくのではないかと思います。

 大人でも忘れてしまいがちな事です。
時々は思い出してみて下さい。

第14回 剣道は爪先立ちか?(1)

 剣道の基本的な立ち方は、足一つから一つ半分開いて
右足を一歩出すような立ち方です。
 左足のつま先は、右足の踵の位置に来るくらいの一歩です。
また左右の足は開かずに、ほぼ平行になります。
この時、右足のかかとを紙一枚分くらい少し浮かせます。
左足の踵も文庫本一冊くらい浮かせます。

 初心者はよく勘違いをするのですが、これは爪先立ちじゃありません。
爪先だけで立っている時は、既にふくらはぎと、アキレス腱が
収縮している状態なので、これではジャンプできませんよね。

 ちょっと難しい話をしますが、剣道のスピードは下半身の
反発運動を使って、効率的に体重を前に移動させることで発生します。

 大きく右足を出す、たとえば水溜りを飛び越える時は
右足を出す前に、一瞬左ひざを曲げて、体の重心を前斜め下に落とします。

 その時、力の抜けた膝から足首に圧力が加わり、
アキレス腱とふくらはぎが瞬間的にグッと引き伸ばされます。
その反発で次の瞬間筋肉が収縮し、その反射で同時に腰が押されて股関節が開き、
右ひざが上斜め前に出ます。
これが竹刀を振りながら体を前に出す下半身の仕組みです。

 ですから、すばやく動くために筋肉を伸縮させるには
必要な部分の筋肉に少し力をかけ、
後は少し緩めておかなければなりません。
そして自然に前に出る動きにつながる様な形で、
膝のバランスが崩れるようにするには、
踵が少し浮いている方が都合がいいのです。

 たとえば短距離走のクラウチングスタートを思い出してください。
上体を低くして前に加重するので、、踵は少し地面から浮いた
形を作りますよね。

 言いかえれば、逆に踵がべったりと床についている人や、
踵が上がりすぎている人、左右の膝があまりに伸び切っている人は、
効果的な体重移動ができないことになります。

第15回 剣道は爪先立ちか?(2)

 さて、じゃあ剣道的な足のバランスのコツはどこなのかと言うと、
まずは、土踏まずを意識する事だと思います。
地面にぎりぎりで触っていないこの部分、
正確には足の中心の、土踏まずがちょうど始まる辺りに
いったん両膝で受け止めた体重がかかるつもりで構える。
こうすれば、バランスよく素早い体重移動の準備ができます。

 また、左足と右足のバランスですが、
右足に6割だ、いや左足に7割だと
色々な先生方がそれぞれの理論をお持ちです。
そして、実はそれはどれも言い継がれてきた事で、どれも正解なんです。
なぜかと言うと、これは、その先生が生徒のレベルや年齢に応じて
どんな剣道をするべきか、違うアドバイスを与えるからです。
結局は力まずに効率的に体を移動させる準備がしやすい
バランスで構えると言うところが正解でしょう。

 さて、もう一つは左の膝です。
昔から「左足のひかがみ(膝の裏側)を張りなさい」と
色々な教えの中で多く言われてきました。

 ひかがみが伸びていない人、
すなわち膝が曲がっている人に見られるのは、
右足の踵をべったり床につけて
完全に右足だけで立っている状態で剣道を行っている事です。
こういう癖のある人は、ほぼ100パーセント足さばきに難点があります。
素早い体重移動が出来ないためです。
また同じ理由で、腕の力だけを使った不自然な打突になりがちです。

 まっすぐ立って膝の関節を反らせて間接の噛みあわせると
あまり大きな力を使わずに立っていられますよね。
ところが、これは楽すぎてどこの筋肉も緊張状態にないので、
急に収縮できない状態です。

 ですから「ひかがみを張る」というのは
見てわからない程度に軽く膝を曲げつつ
足のバランスの軸が股関節からふくらはぎまで
直線になるようにしながら
全ての足の筋肉がいつでも動ける状態にすることです。
この角度は稽古の中で、自分で得るしかありません。

 という理論から大人は剣道を学ぶことができますが、
子供はこういったコツを経験から覚えます。

 今、稽古で竹刀を持たずに行っているような
蛇行して早く動いたり、右足を出して何かを飛び越す練習だとか、
しゃがんで歩いたりというような予備練習には
そういう意味があります。

 ダンスと一緒で、まずは姿勢と足さばきから、が基本です。