第10回 自分で畳むことの大切さ

 剣道着や袴をたたむのはちょっとしたコツがあります。
ご自宅でたたみ方がわからない場合は、インターネットで検索して下さい。
小さいお子さんも慣れれば自分で出来るようになります。
自分の稽古着を自分でたたむのも大切な稽古のうちの一つです。

 剣道の稽古は、まず自分が練習しなければ上達しないものです。
自分で剣道着を畳むというのは、自分の為に自分で努力をする練習です。
袴をたたむのは最初は難しいので、たたむ目の前でちゃんと見せて、
最後は紐だけでも自分でさせるところから始めてください。

 また、是非これを機会にお父さん方にも「男の作法」として
袴のたたみ方を覚えるのも悪くはないと思います。
子供にさせるには、まず親がやってみましょう。
慣れるとなかなか楽しいですよ。
ピシッとたためた時は実にいい気分です。

 剣道着は洗わないんでしょ?と聞かれる事がありますが、
洗って下さい!洗わないと臭いです!
実は日本の藍染は抗菌作用があり、汗に侵されにくいので、
強い洗剤は必要ありません。

 また、高い本藍染の剣道着はこちらの洗濯機だと
激しく色落ちしてしまうし生地も傷んでしまうので、
ぬるま湯か水で手洗いが基本です。
お湯だと汗は落ちやすくなりますが、
藍も落ちやすくなりますのでご注意を。
夏場は出来れば汗をかいた直後に
すぐに洗ってしまうのがもっとも良いと思います。

 冬の稽古などで、あまり汗をかいていなくても
必ず吊るして干すようにして下さい。
少なくとも2回着たら洗います。

 ただし、子供の剣道着はそんなに上等に出来ていませんので。
洗濯機でネットに入れて「弱」で洗っても大丈夫です。
ただし、紺色の場合は色落ちするので
他の物と一緒に洗わないようにしてください。

 剣道は昔から防具や剣道着の臭さが問題でした。
臭いの元は細菌ですので、洗わず天日に干すだけでも効果的です。
ただし、その際は殺菌処理をして下さい。
デトールかユーカリオイルなどを水で薄めたものを
全体に軽くスプレーするのがお勧めです。
(ファブリーズは匂いがついてしまうのでお勧めしません。)

 袴は夏でも干すだけで数回の稽古に一回洗うくらいで大丈夫ですが、
安い袴は背板の部分の中身が型崩れするか擦り切れてしまいます。
手洗いでつけ洗いがお勧めです。
洗濯機の場合は、必ずたたんでネットに入れて
「手洗いモード」で洗って下さい。
また藍染のものは直射日光に当たると色があせるので、
陰干をお奨めします。

第9回 手の話(2)

 今回も手の話の続きです。
前回述べたような、竹刀の基本的な持ち方は
手の中に遊びを持たせることにより
効率よくスライドさせて、素早くコントロールしながら
最小限の力で鋭い打突を生む為の握り方です。

 これが常に自然にしっかりできるようになると一人前です。
武士の時代には、武者修行に来た人に
「どれくらい(剣を)使いますか」と聞いて
「ようやく竹刀の握り方を覚えた程度です」と言えば、
十数年経験をつんだ、かなりの腕前の剣士と見てよい
と言われていました。

 こういう道具の使い方は、どんなスポーツでも
おそらく同じだと思います。
上達の早いスポーツ選手は、早い内に
このようなコツを見つけて実践しているのです。

 さて、剣道では、このような手の使い方を「手の内」といいます。
(弓道でも弓を持つ手の持ち方を、同じく手の内といいます。)
手の内の作用、つまり握り方と指の締め方はとても重要で、
だから有段者は竹刀を大きく振らなくても「ビシッ」という
強い打ち方ができるのです。
これは竹刀でも日本刀でも同じことです。

 その昔、武士が日本の歴史に現れた頃には、
こういう技術や上達のコツは
実際に戦場で斬り覚えるしかありませんでした。

 また、実際に「剣術」という体系的なものが
出来はじめてからも、長い間修行をしなければ、
弟子にはなかなか教えてもらえない秘密でした。
剣の技術の習得は、命のやりとりに
直接関係していたからです。
剣の技術を教えた弟子に、後々自分が斬られる事も有り得たのです。

 そして、江戸時代になり平和な世の中となっても
武士の表芸として、剣術の稽古は続けられました。
藩士は藩での剣術稽古、また他にも多くの町道場ができました。

 ここでも修行の仕方は同じで、
よほど身分の高い侍でない限りは、
何でも簡単には教えてもらうことはありませんでした。

 「先生より弟子がうまくなっては商売にならん」
という先生もいたそうですが、大抵は
「簡単に教えてもらっても意味が無い。
まずは自分で研鑽を積んで習得せよ」
という理由であったようです。

 ただし、いくら見てまねしようとしても、
肝心の握った手の中の作用までは見えません。
だから自分の秘密を公開することを
「手の内を明かす」と言うのです。

 もちろん、当クラブの指導では、
秘密のテクニックなどありません。

第9回 手の話(1)

 今回は手の話しをします。

 竹刀を強く握りすぎると、正確に振れず
他のところにも力が入って、
ただ体力を消耗するだけになってしまいます。

 効率良く振る為には、正確に竹刀を持つことが大切です。
振り上げる時は力を抜いて、
最後の相手を打つ瞬間だけキュッと締めこみます。
この「キュッ」と手を締める様に
打つのが剣道の打ち方のコツです。

 よく「雑巾を絞るように」と教わったという
話を聞きますが、正確には間違いです。
絞るのは「雑巾」ではなく「茶巾」です。
茶巾とは茶道で使う小さい布です。
だから「ギューッ」と思いっきり力を入れて
絞るのでは無く「キュッ」なのです。

 ところが、この茶巾というものは
現代の生活の中では茶道をされる方以外は
あまりなじみのない物ですから
意外と知らない人が多いのです。
だから、これがおそらくどこかで間違えて
「雑巾」になってしまったのではないでしょうか。

 実は、剣道では左手の小指が一番大事です。
ちなみに、映画などでよく見る
ヤクザが左手の小指を切り落とす儀式には元来
「もう刀を持つようなことはしません。ケジメをつけます」
という意味があります。

 基本的な竹刀の持ち方は以下のとおりです。

左手

人差し指…そっと添えるように。
中指…指先が親指に軽く着くように。
薬指…やや強く。
小指…しっかりと、やや締めこむように。

右手

人差し指…そっと添えるように。
中指と薬指…小鳥を持つようにやわらかく。
小指…その小鳥が下に落ちないように少し締めておく。

 そして、最後は手相で言うところの生命線に沿って、
両手とも、上から包み込むように柄の両端を持ちます。
こうすると力を入れて握らなくても、
しっかりと竹刀を支えることができるのです。

 左手は柄の一番先の部分(柄頭-つかがしら)
を持ちます。右手は鍔元(つばもと)いっぱいから
人差し指が鍔に着くかつかないかのところです。

 ただし、右手の親指の付け根が
鍔についているのは握りこみすぎです。
うまく持てば、右手の親指の付け根と鍔の間に
大きな三角形の隙間が出来ます。

 なかなか最初は難しいですが、これにまずは慣れることです。
意識して、練習あるのみ。

第8回 踏み出せ

 お子さんの長い夏休みも終わりですね。
また新しい一年が始まります。宜しくお願い申し上げます。

 来週から通常通り稽古が始まります。
12時45分から1時45分の予定です。
場所は日本人学校体育館です。
校舎から少し離れたところにあるので
時間に余裕を持って移動をして下さい。

 お子さんの防具を購入された方は
先に垂れと胴をつけて置いて下さい。
つけ方が分からない方は
お教えしますので、
指導部までお問い合わせ下さい。

 さて、今週は下がるという事についてお話をします。
稽古中に私はよく生徒に「下がるな!」と注意をします。
後ろに下がると言うのは大抵は気持ちが負けているからです。

 ただし、負けていない人もいます。

 自分が一歩攻め入って、相手が出てきたら、
すっと一瞬下がる、そこに相手が
「あ、これなら打てるか?」
もう一歩踏み出そうとした瞬間に打ちかえす。
完全に心の緩んだ攻撃で出ばなへの攻撃です。

 また、逆に何度か引いた後でグッと前に出ておいて
相手がチャンスだと思って大技で来た所を
一歩引きながらさばいて打つ技もあります。

 かつて全日本選手権で前人未到6度の優勝を果たした
神奈川県警の宮崎正裕先生が
見事につかわれていた技です。

 当時の大会では、下がりながらも
見事に相手の剣と技を殺しながら
相手を攻めていました。

 また、数年前の世界選手権において
団体戦決勝での引き分けからの代表戦に
日本チームキャプテンとして
劇的な勝利を収めた栄華直樹先生が、
全日本選手権決勝戦で宮崎先生の7回目の優勝を阻んだのも
自ら攻めて、相手が面を打ちに飛び込んで来た所を
一歩引きながら裁いて打った小手でした。

 しかし、どんな高い段者の先生でも
稽古では常に前に出る気持ちで稽古をします。
技の稽古では下がって打つ技の稽古もしますが、
心は常に前に進む気持ちを忘れない事です。

 叩かれるのが怖かったら、叩かれても剣先を外さず、
グッと前に出て、あえて叩かれるような強い気持ちで
常に稽古に臨むと、大人になったときに
きっと立派な剣道が出来るようになるはずです。

 大人でも、遥かにレベルが上の先生方に
稽古をお願いするときは、どうしていいか分からずに
下がってしまいそうになることがあります。
相手の気に押される、そんな気持ちです。

「斬り結ぶ白刃の下こそ地獄なれ、踏み込みゆけばあとは極楽」
「斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

 共に昔の達人の言葉です。
勇気を振りしぼって相手の懐に飛び込めば、
必ずチャンスがあるということです。

 だから、構えたらまずは下がらない事です。

第7回 素振りは積み重ね

 素振りは大切な稽古法の一つです。
面小手をつけての稽古は二人いないとできません。
でも素振りなら一人でもできます。

 道場じゃなくてもできます。

 剣道は慣れないうちはとにかく疲れます。
ただ棒を使って相手を打つのではなく、
同時に相手の動きを読み、なおかつ良い姿勢を保ち、
気合をかけることを要求されるからです。

 ですから、ある程度は体力が必要です。
子供や初心者のうちは体力づくりとして、
また反復運動による基本的な技術の習得方法として、
それから経験者には技の修練、研究のひとつとして
素振りは欠かせないものです。

 1日1回の素振りは1年で365回です。
この回数は大人なら30分あれば楽勝でできます。
これを10年分やれば3650回です。
大人が少しずつ休みながらやると、
大体3時間くらいかかります。
さらに100年分で3万6500回です。
一日で振るのはかなりキツイです。
その前に、する気になりません。

 でも、一日100回は20回ごとに
少し休みを入れながらやれば、
低学年の子供でもできます。
だから、回数は何回でもかまわないので、
素振りを毎日続けられるかどうかで、
後の結果が大きく違ってくるのです。

 ただし、間違えた素振りをつづけると、
間違えたまま体が覚えてしまうので、
先生に見てもらったり、鏡を見ながらチェックしたりして
軌道修正しながら稽古する必要があります。

子供の場合はゆっくり、大きく、力を抜いて
そして、まっすぐ振ること。
足もしっかりと前後に踏み出すことが大切です。

大人の場合はちゃんとできるようになったら、
足さばきやスピードを変えたり、体や腕の使い方を変えてみたり、
踏み出すタイミングや角度を変えてみたりと色々と考えながら、
何が自分にとってベストなのか研究しながら行います。

私も、道場での稽古が無い日もある日も、
毎日自宅で鏡をみながら素振りをしています。
立ち方一つが大きく勝負を分けることにつながる時もあるので、
本当に剣道は奥深いです。

こういったことも含めて、剣道は一生取り組める武道なのです。
歳をとって若い人と道場での稽古はできないけれど、
仕事が忙しくて稽古になかなか行けないけれど、
体力維持の為に庭での素振りは欠かさない
という方も大勢いらっしゃいます。

何事も地道な日々の研鑽しか高みに通ずる道はありません。
その努力は必ず自分に答えを出してくれると信じています。

第6回  大きく気合をかけること

 剣道では、打突の前と打突の時に大きな声を出します。
両方合わせて「気合」と言うのですが、
この気合は剣道の修練とは切っても切れないものです。
子供も大人も「大きな声をだしなさい」と教わります。

 ご存知のとおり、
剣道では打突の時に「面、小手、胴」
と打突部を大声で宣言します。
また、打突の前にも声を出します。
まず相手と向かい合った時に「ヤア!」または「エイ!」と声を出します。
両方とも、強く大きくお腹から声を出します。

 この気合という言葉は、日常生活でも
「よし、気合を入れてやろう」などと言う風に使うくらい
日本人には馴染み深い言葉です。
多くの場合は「気を引き締めて物事を行う」
という意味で使います。本来の意味は字の如く「気持ちを合わせる」事です。
つまりは皆で何かを集中して同時に行う時の掛け声ですね。

 余談ですが、昔は武士以外の階級の人たちが
剣術の事を「ヤットウ」と呼ぶことがありました。
これは二人で稽古を行う時の「ヤッ!」「トウ!」
という掛け声が語源になっています。

 木刀をつかった剣道形では、今でも「ヤア」「トウ」と掛け声をかけます。
剣道での気合は、二つあります。まず一つ目は、相手を打つ時の気合です。
技を出す一瞬に腹に力を込めて気持ちを集中させる為の気合です。
技と、体と、心を合わせる為の気合です。
また、打突部位を明確に宣言する事により、
自分が意図した所を打っているかどうかを知らせる為という側面もあります。

 そしてもう一つは、立会の最初にかける気合。
相手と向き合った時に、自分を奮い立たせる為、
また相手の戦意を喪失させる為です。

 しかし、相手も同じ様に気合を掛けます。
だから、自分もその気持ちに答えるごとく、
また相手の気持ちに負けない様に、気合をかけます。

 相手がいなければ剣道はできません。
「さあこい」「ならばいくぞ」
こういう気持ちを気合に込めての、
最初の「ヤアァァァァァ!」です。
まさに、相手と気持ちを合わせるのです。

 高段者になればなる程、これ以上に深い心の在り方が
一つ一つの立会いに求められます。
まるで頂上の見えない山に挑むが如く、
とても難しいのですが、これも剣道の醍醐味の一つだと思います。

と、こういう難しい話をしても子供はおそらく口をあけて
「ポカ~ン」ということになるので、
まずは自分が相手を怖いと思う気持ち、
失敗したら恥ずかしいと思う気持ちに負けない様に
「ヤアァァァァァ、メェェェェン!」
と大きな気合をかける事を学んで欲しいと思います。
喉だけではなく、全身を使って声を出す気持ちで、
自分自身を励まし奮い立たせる事を身につけて欲しいと考えています。

子供に「声を出すのが恥ずかしい」と言われたり
「どうして声を出すの?」と聞かれたら、こう答えてあげて下さい。

ただし、ある程度の年齢以上になったら
「自分で先生に聞きいてみなさい」と言うのが一番の正解です。
よろしくお願いします。