第147号 「すりあし」

パース桜剣道クラブ通信 147 「すりあし」


 剣道の足踏みようは、基本的にはすり足です。
しかし、遠くに飛び込んで面を打とうとする場合などは
左足で強く踏み切りますから、自然と右足は遠くに
着地するために勢いよく踏み込むような形になります。

 昔の古武術などでは鎧を着ていることを
前提としている為、腰を低くして、足をしっかりと
踏みしめるように歩み足で動く流派が多くありました。
 鎧兜をつけていれば上体が重い訳ですから、
足を高くあげるとバランスを崩してしまうためです。

 また、前提として鎧兜がある訳ですから、
刀を頭上に振り上げる事はできません。
したがって刀を肩に担ぐように振り上げて、
体を左右に開きながら相手の首筋や間接などの
鎧の隙間を狙う技術を磨く流派が多くあります。

 この鎧武者の低い構えに対して早く動けるように
新陰流の家元の血筋である柳生兵庫が直立するような
構えを考案し、また奇しくも同時期に、剣豪宮本武蔵が
独学で直立しての戦い方を編み出しました。

 そして江戸中期以降、面籠手をつけての
剣術が主流となると、それ以後多くの流派が
この自然に直立したような構えになります。
そして、中西派一刀流に学んだ千葉周作のが開いた
北辰一刀流のあたりから、現代の剣道の様に、
踏み込むようにすばやく飛び込んで打つように
なったと言われています。

 こういった飛び込むような動作は、竹刀を使った
現代剣道に近い剣道独自の動きと言われていますが、
竹刀や面籠手をつけての稽古を採用しなかった他流では、
自分たちの流派の宣伝も含めて
「すり足の剣術は、所詮はきれいな板張りの道場での
平和な時代の剣術の足裁きだ」
と竹刀を使う流派の悪口を言う人もいたそうです。

 ただし、この北辰一刀流でも木刀での形稽古では
遠くから飛び込んで打つことはなく、すり足を維持するように
道場に乾燥させた豆をばら撒いて、うっかり足をあげて
上から踏むと激痛の走るような稽古もしたと言います。

 いずれにせよ、体ごと前に出て斬る、打つ
ということは必ず覚えなければならない大切な動作に
変わりはありません。

 さて、このすり足はという動作は多くの日本の伝統的な
所作に取り入れられています。特に礼法や作法が重要となる
弓道、茶道、伝統舞踊などに多く見られます。

 それに、着物であれば、このような所作が合理的であり
自然と手の動き方がそれに合わせたものに変わってくる訳ですし、
更に肩の力を抜きながらも姿勢を正しくしなければなりません。
その為に、自然と重心が下に来るようになる訳です。

 当然ながら足の長いヨーロッパ人には、
なかなか苦手な動作のようですが、現代の日本人も
生活様式は完全に西洋化していますから、
こういった所作もなかなかできずに苦労する子供たちが
増えてくるのではないでしょうか。

 ただ、普段は使わなくとも、こういった剣道や
日本の伝統的な作法を習うことで、自分たちのルーツを知ったり
日本人以外にとっても、ほかの文化を知ることで
自分たちの文化を改めて再認識するよい機会に
なるのではないかと思います。